パニック障害と条件反射に関する“脳科学”の視点からの説明
パニック発作の予期不安(条件反射)
パニック発作で悩んでいる人の脳内に形成されている条件反射について説明します。
パニック発作がなかなか治り難いタイプの人は、不安感が強く、心配症で、こだわりが強い人、
ストレスに強くさらされている人に認められます。
個人差にもよりますが、こうした神経症の傾向がある人が恐怖を体験して、条件付けされてしまうと、また起こるのではないかというパニッック発作の予期不安をやわらげることが難しいことはよく知られています。
薬物治療で治り難い状態に至っている人は、徹底した心理療法と催眠性暗示による働きかけで、以下に説明します脳機能の改善が効果的です。
ストレスとトラウマによって生じる特定の脳部位の機能低下(変調)の回復に有効な薬がまだないというのが現状です。
それゆえに、パニック障害を理想的に治すためには、額の裏側にある、前頭前野の内側や外側の機能調整が必要なのです。
大脳皮質の内側前頭前野と呼ばれる領域があります。外界の出来事や扁桃体で感じたこと(例えば、恐怖感)をもとにした、扁桃体からの出力を制御する働きをするところですが、この扁桃体へ投射する内側前頭前野が損傷を受けてしまうと、条件付けされた恐怖反応を消去することが非常に難しくなることが分かっています。つまり、予期不安に怯え続けるということです。
この皮質領域(内側前頭前野)が(正常であれば自然に治まる恐怖感が)、損傷とまではいかなくても、働きが弱っている(機能不全を起こしている)と引き続き恐怖反応を示し続けるのです。
パニック発作を経験した時点のストレスにさらされた心理状態の時は、脳機能が障害を受けやすい状態なので、内側前頭前皮質が不調になれば、皮質によって抑制制御を受けない扁桃体は、予期不安を作り出してしまうのです。
以前パニック発作を起こした場所や状況などの条件刺激が、今はもう危険ではないことが示されても、恐怖反応が起こり続けます。いわゆる予期不安が消え去らないのです。
扁桃体の興奮による恐怖反応を鎮めるには、前頭葉の働きがなくては抑制をかけられないということが脳科学でわかってきました。扁桃体を制御するためには、いわゆる理性の働きが必要なのです。これを、催眠療法と心理療法で改善していきます。
ここでは、損傷という表現を一部使っていますが、一般には、機能不全(機能低下)のレベルだとお考え下さい。人は約3ヶ月程の持続されたストレスを受けると、脳機能の働きが誤作動を起こすことがよくあります。
たとえば、パニック障害の症状に見舞われる人の約8割以上で親子間や夫婦間、または職場での強い葛藤が最初のパニック発作を経験した約3ヶ月前から続いているのが認められています。そうしたストレス状況の中で、脳機能が誤作動を起こしてしまうのです。
また、人が前頭葉の損傷を受けた場合の特徴のひとつには固執があります。すなわちいったんその動作が適切でないと判断しても、それをやめられなくなるのです。固執(こだわり)はふつう認知あるいは思考の障害と考えられています。保続傾向、固執傾向とも呼ばれ、いったん誘発されたパニックの反応や知覚が不適切に繰り返されてしまい、リセットできないでいる転換障害なのです。
実験によると認識性固執は前頭前野皮質の外側領域への損傷によって引き起こされ、情動性固執は内側前頭前野の狭い領域の損傷で引き起こされたと報告されています。
前頭前野と呼ばれる脳部位は、表面の外側部分と内側に重なった部分で構成されます。この脳部位は変化する状況に行動を適応させながら、認知あるいは情動の機能に関連した働きをしています。
最近の研究によれば、海馬と同様に前頭前野は過剰なストレスホルモンの放出を制御するように働くことが分かってきました。ストレスが長引くとこの負のフィードバック制御機能が崩壊するので、前頭前野と海馬は両方とも障害を受けるといわれています。
ストレスによって引き起こされる前頭前野の機能低下(変調)は扁桃体へのブレーキ(制御)を緩めてしまいます。その結果、新たな経験(学習)は強化するが、以前の体験(恐怖体験などの学習)は消去しにくくなります。また、過去に消去されたはずの恐怖条件付けなども再発させるような働きをすることもあるようです。
もう一度お断りしておきますが、パニック障害や不安障害などで悩んでいる人が、前頭前野に損傷を負って生活している場合は極端なケースであり、回復可能な機能障害や低下が起こっているだけです。一般には、ストレスによって脳機能に異常が起き、電気的あるいは内分泌の微妙な変化が生じているだけです。それゆえに、そうした脳部位の不調を改善するためには、現在や過去の(幼児期のトラウマも含めた)心の整理が必要なのです。それによって精神的ストレスの影響を回避できるようになるからです。
脳の活動に働きかけ、パニック障害を治す!!
パニック発作で苦しんでいる人は、予期不安に怯えた生活をしいられています。症状が出ないように治すことよりも、症状と上手く付き合う工夫をすることで、予期不安を緩和させている方々も多いことでしょう。
予期不安とは、脳内の回路に形成された条件反応として発生します。
パニック発作の条件刺激と条件反応のメカニズムを理解することで、普通の自由な楽しい生活を取り戻せるという安心感を抱けるようになって下さい。
経験した症状の再発を恐れ、強い不安感に怯えて、避けることに神経を過剰に使うようになって生活していては、すでに形成された条件回路を強化して治り難くしていきます。それは、条件刺激(以前に症状を起こした場所や状況)に過敏になり、恐怖を処理する扁桃体を無意識的に活性化し、同時に側頭葉の記憶系も刺激し、パニック体験の生理的記憶を呼び起こし、そのパニック体験に関連した最近の出来事を思い出させて、条件反応が誘発されやすくなってしまうのです。
このような思い出すことで意識された過去に体験した強い情動反応の記憶は、扁桃体によって恐怖反応が無意識のうちに活性化されるために強化されていきます。
情動反応に関する記憶による条件刺激を受けると、次に大脳皮質と海馬の恐怖反応が活性化され、さらに扁桃体を刺激します。そして、扁桃体の反応が身体的に表現されると、皮質は情動表出が進行中であるということを認識し続け、さらに不安感と不安に関する記憶を強めてしまいます。
脳はこのようにして情動と認識の両方の興奮の悪循環にはまり込み、ニューロン間にバーニング現象を起こし、燃え盛る炎のように勢いを増してしまうのです。
パニック発作を経験した時に引き起こされる身体感覚が、条件反射を誘発する条件刺激として作用することを説明しました。パニック発作を一度経験すると、身体に起こる兆候を学び取ってしまいます。それらの内的シグナルが起こると、パニックが起こりつつあると感じて(誤解して)しまいます。この身体的感覚の認識機能による評価はこのシステムをパニックへと駆り立ててしまうのです。
こうした、前頭前野と海馬と扁桃体等の脳内回路の機能不全を改善するために、過去のパニック発生の際に経験した内的刺激に対する条件反射を改善するために、適切なカウンセリングを伴った催眠療法(催眠暗示などでの情動系への働きかけ)は早く、そして完全に治すために不可欠だと思っています。
パニック発作を起こす条件反射(条件刺激と反応)
たとえば、パニック発作の症状の一つとして過呼吸があげられます。過呼吸に反応して起こる血圧の上昇を経験することで、血圧の上昇がパニックの恐怖を引き起こす条件刺激になります。たとえば、たまたま緊張する状況に置かれたなどの、パニック障害とは全く関係のない原因で血圧は上昇したとしても、以前に過呼吸によって引き起こされ血圧レベルを上昇させるような条件付けられたパニック発作時の感覚が引き起こされます。これらの感覚が認知されると、パニック発作の開始を示すものと解釈されてしまのです。意識上では、今パニックの発作が起こりつつあると感じているのは、条件刺激となった血圧の上昇が原因しているとは気づかれることがないまま、パニックの発作が突如自然に起こったかのように誤った受け止められ方をしてしまうのです。それゆえに、いつ起こるか分からない不安をさらに強めてしまいます。
もし最初のパニックが、車の中で起こったとすると、車の中にいることが条件刺激となり、パニックの症状が起こりそうな気分にさせてしまうものです。
症状が起きるということは、全てにおいて原因があります。パニック障害から解放されるためには、適切な指導の下で、そうした因果関係を理性的に処理できるようになる必要があります。
また、過呼吸によって生じる二酸化炭素の血中レベルの変化に非常に敏感なニューロン(神経細胞)が下部脳幹に存在しています。
扁桃体は恐怖などの情動反応を出力しますが、一方で自律神経の働きである心拍数、血圧や他の体内の生命維持に関する情報を脳幹の神経細胞から入力を受け取ってもいます。たとえば、体内器官の状態を血中の二酸化炭素のレベルについての情報と統合することにより、扁桃体は同時に起こっている事象との間にシナプス結合を形成することが出来るのです。このことによって、扁桃体からの出力によって交感神経系を強く活性化するという点で身体状態と二酸化炭素のレベル状態は同等の作用を持つようになります。このようにして、いったん交感神経系が活性化されると患者は身体的な刺激状態に気づき、意識にのぼる(外示的)記憶によって、経験されつつある兆候はパニック発作で起こる現象で、まさに発作が起こりつつあるようだということを恐怖を伴い自覚するのです。
このようなパニックが起こりそうだという意識的な記憶や考えによって、海馬や大脳新皮質から扁桃体への投射が交感神経系の更なる持続的な活性化を引き起こし、典型的なパニック発作を引き起こしてしまいます。
一方では、心拍数や他の身体機能の状態について間違ったフィードバックが働いた場合、事象の連鎖はおそらく大脳皮質による認識として始まり(たとえば心臓が早く拍動していると考えるような)、次に過去のパニック発作として頻脈が起こったという経験の外示的記憶を想起する手がかりとなります。このような意識的な思考と明確に意識された記憶は、大脳新皮質のいくつかの領域と海馬から扁桃体へいたる投射によって、同様に扁桃体の興奮の引き金を引き交感神経の興奮による情動表出を起こします。
パニックが起こりつつあると不安がり信じてしまうことは身体的感覚と本格的なパニックの発現を結びつける事象の連鎖における重要な接点といえます。
このような脳内の誤作動を起こし続けないために、最初にパニック発作を経験した時の、精神的・身体的な発症の原因を正しく明確にすることから始める必要があります。
パニック障害は、正しい手順を踏んで、対処していけば治せるのです。
自由で楽しい人生を取り戻して下さい!!